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東京地方裁判所 昭和24年(ワ)4603号 判決

原告 中央建材株式会社

被告 追補責任軽井沢町森林組合

一、主  文

被告は原告に対し金十六万一千五百七十円七十九銭及びこれに対する昭和二十三年二月二十九日以降完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

原告その余の請求は棄却する。

訴訟費用は二分して各その一を原、被告の負担とする。

本判決は、金五万円を担保に供するときは、確定前に執行することができる。

二、事  実

第一請求の趣旨

被告は原告に対し、金三十四万九千四百八十六円十一銭及び内金十六万一千五百七十円七十九銭については、昭和二十三年二月二十九日から、残金十八万七千九百十五円三十二銭については、昭和二十四年十月二十三日から、各々完済に至るまで、年六分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

第二請求の原因

一、昭和二十三年二月二十八日原告中央建材株式会社(当時の商号は群馬木材株式会社)と被告追補責任軽井沢町森林組合との間に次のような売買契約が締結された。即ち、

(一)  被告は岩村田営林署から払下を受けた国有林二十一林班中の赤松、落葉松の立木を素材に生産して、一等材約一千石を原告に売り渡すこと。

(二)  売買価格は、現行公定価格表の一等材価格(L価格に石当り金四十円を加算した額)とするが、公定価格表の改編があつたときは新公定価格表によること。

(三)  目的物の受渡場所は信越線沓掛駅構内土場渡とすること。

(四)  目的物の受渡期間は昭和二十三年三月十日から同年五月末日までの予定。

(五)  原告から前渡金四十万円を被告に支払うこと。その後受渡素材が契約数量に満ちた際清算するが、それ以前でも被告の請求があれば、不足代金の分割支払に応ずる。

二、右契約に従い原告から昭和二十三年二月二十六日金十万円が被告に、同年同月二十九日金三十万円が被告の指定で訴外吉田幸介に、各支払われた。

三、ところが同年三月二十一日から同年六月十四日までの間に、被告は六回に計四百七十八石九升の松素材を生産引渡したにすぎなかつた。

四、そこで、同年七月二十七日、原告代表者海田と被告代理人望月芳平との間に次のような協定が結ばれた。

(一)  千石の売買契約は引渡完了まで持続すること。

(二)  売買価格は一等材の公定価格の二割増とすること。

(三)  規格は末口七寸以上とすること。但し二十尺以上の長物は末口四寸までとすること。

(四)  既に受渡済の素材中末口七寸未満のものは二等材として価格を計算すること。

(五)  素材は同年十月十日までに沓掛駅土場に搬出すること。

(六)  受渡素材は百石まで駅土場に集積すること。

(七)  価格清算の時期は引渡完了の際とすること。

(八)  積込協力費は石当り金二十円とすること。

五、そして、被告は同年七月二十八日に松素材六十三石五斗を沓掛駅土場で、同年十一月十日頃同六十一石二斗一升を佐々木工場で、各原告に引渡し原告はこれを現地で処分した。

六、以上を通じ、被告は原告に松素材六百二石八斗を引渡しただけで、残三百九十七石二斗の引渡をしないので、昭和二十四年六月三日、原告は被告に対し内容証明郵便で、同書状到達の日の翌日から二十日内に、残素材を沓掛駅構内土場で引渡すよう催告し、もし履行しないときは本件松素材売買契約の未履行の部分を解除する旨通告し、同郵便は翌四日被告に到達したが、被告は右催告期間を徒過したので、本件契約未履行の部分は解除された。

七、ところで、被告が原告に引渡した松素材計六百二石八斗は、昭和二十三年七月二十七日の協定により、売買契約当初の一等材公定価格の二割増に、貨車積込協力費石当り金二十円を加算した額によるから、これを算定すれば、

昭和二十三年三月二十一日から六月十四日までの四百七十八石九升分

金十九万九百八十九円五十三銭

同年七月二十八日の六十三石五斗分

金二万四千百五十五円四十銭

同年十一月十日の六十一石二斗一升分

金二万三千二百八十四円二十八銭

合計

金二十三万八千四百二十九円二十一銭

となり、これを前渡金四十万円から差引いた残金十六万千五百七十円七十九銭は、右契約一部解除により、被告から原告に返還すべきものであるから、原告は被告に対し、右残金及びこれに対する前渡金受領の日である昭和二十三年二月二十九日以降年六分の利息の支払を請求する。

八、又木材の公定価格表は、昭和二十三年十月十一日改定され、原被告の協定規格(前記四の(三)記載)に該当する一等松素材の東京における改定公定価格は石当り金九百六十三円五十銭(Lの一割五分増しに四百円加算のもの、但しLは四百九十円)となり、もし被告が昭和二十三年十月十日の受渡期限までに残素材三百九十七石二斗を引渡したならば、原告はこれを東京に運送し、少くとも金三十八万二千七百二円二十銭に販売することができ、これから右三百九十七石二斗の、

素材代金石当り三百八十円四十銭(第二次協定の額)計金十五万千九十四円八十八銭

沓掛から東京駅までの運送賃

石当り八十円

計金四万三千六百九十三円

東京までの引取料

石当り三十円

合計

金十九万四千七百八十七円八十八銭

を差引いた残額金十八万七千九百十五円三十二銭は原告の得べかりし利益ということができる。即ち当時は建築用材の需要が多く、市価が公定価格を上廻つていた実情にあつたから、木材販売を業とする原告が前記の利益を上げ得ること、従つて、被告の右素材引渡債務不履行により原告が右売買利益に相当する損害を蒙るであろうことは、木材取引界の事情に通じている被告として当然予見し或は予見することができるから、被告はこれを賠償する責任がある。そこで、原告は、右損害金及び本件訴状が被告に到達した日の翌日である昭和二十四年十月二十三日以降完済に至るまで年六分の割合による遅延損害金の支払を請求する。

第三第一に対する答弁

原告の請求は棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第四第二に対する答弁並びに抗弁

A  一、の事実は認める。但し売買価格については、別に貨車積込費、検査費、森林組合費その他の経費に充当するため、公定価格の四割乃至五割の金員を、別に原告から被告に支払う口頭の特約があつた。

二、三、四、五、の事実は認める。但し、四の協定事項中、(二)の公定価格というのは、昭和二十三年六月二十三日改定された暫定公定価格のことである。

六、の素材引渡数量及び原告からのその主張のような内容の内容証明郵便到達の事実その期間内に被告が要求せられた履行の提供をなさなかつた事実は認めるが、その他は否認する。

七、八、の事実は否認する。

B  原告の本件契約解除は効力を発生しない。即ち、

(イ)  本件契約締結当時は臨時物資需給調整法に基く指定生産資材割当規則第五条により、木材割当証明書と引換でなければ木材の譲渡ができなかつたが、原告は原告会社清水工場を受割当者とする素材七百石、有効期限昭和二十三年六月三十日の木材販売業者割当証明書を、同年二月二十八日の売買契約締結後被告に交付したので、被告はこれにより長野県森林組合連合会から県外用材割当通知書の交付を受け、履行期である同年五月末日までに大体七百石程度の素材を沓掛駅土場に搬出したが、配車の不足のため原告主張の数量しか積込ができぬまま右証明書の有効期限を徒過したところ、原告は、同年七月二十七日の第二次協定後は、残素材数量に相当する木材割当証明書を被告に交付しないため、被告は松素材の引渡をすることができなかつた。即ち、原告がその先践義務を履行しないために、被告はその債務を履行することができなかつたのであつて、原告に債務不履行の責任があるのであるから、原告は被告の債務不履行を理由に本件契約を解除することはできない。

(ロ)  第二次協定の履行期である昭和二十三年十月十日前後の九月十日から十月十五日に亘つて、履行場所である沓掛駅土場の補修工事があり、被告の持土場は全然使用できなかつたので、被告は原告の代理人今見昇に通知して、山林現場に協定規格の素材四百石が生産されてあることを点検させて履行の提供をし、なお、沓掛駅土場補修工事完了後同土場に搬出して、その引取を原告に請求したが、原告はこれを受領しなかつたので、原告に受領遅滞の責任があるから、原告は本件契約を解除することはできない。

(ハ)  又原告から被告への昭和二十四年六月三日附催告書によれば、木材代金の前払を申入れてあり、これに対し、被告から、相当額の前渡金支払の上、素材引取方を同月十四日附回答書で申送つたにも拘らず、原告は前渡金の支払をしないから、原告側に債務不履行の責任がある。

C  仮に右契約解除が効力を発生したとしても、原告の松素材代金の計算は不当であり、その主張する前渡金残額は承認できない。即ち、昭和二十三年二月二十八日の契約締結に際し、公定価格の四、五割増の金員を貨車積込費、検査費、森林組合費その他の経費に充当する為、原告主張の売買価格の外別に被告に支払う口頭の約定があつたから、昭和二十三年三月二十一日から六月十四日までに引渡した四百七十八石九升については、当時の一等材公定価格の四、五割増の価格によつて計算すべきである。

又同年七月二十七日の協定によれば、同協定後の受渡素材については、同年六月二十三日改定の暫定価格の二割増に二十円を加算した額で算出することとなつたのであるから、同年七月二十八日受渡の六十三石五斗、十一月十日受渡の六十一石二斗一升については、右算定額によつて計算すべきものである。

D  なお、仮に右契約解除が効力を発生したとしても、原告には損害は発生しておらず、損害が発生したとしてもその主張する損害額は不当である。

即ち、原告は七百石の木材割当証明書の有効期限である昭和二十三年六月末経過後、新たな割当証明書を準備することなく、被告から受渡された分は長野県内で処分する意思であつたから、東京で販売したと仮定する損害は発生の余地がない。仮に前記木材割当証明書によつて残素材を輸送し得たとしても、静岡県に輸送したものとしての得べかりし利益を算定すべきである。又仮に原告主張の通り、東京で使用される割当公文書を闇で調達することができるものとすれば、その代金を原告主張の損害額から差引くべきであるし、且つ何れにしても、素材代金として販売価格から差引く額は前記Cに主張した通り暫定公価を基準としたものでなければならない。

E  もしも本件素材の引渡につき新たな割当公文書を必要としない趣旨であるとすれば、昭和二十三年七月二十七日の約定は明かに不法な取引であるから、仮に前渡金残金があるとしても、不法原因に基く給付となり、原告はその取戻を請求することはできない。

第五原告の答弁

Bの(イ)に対して、

従来取引の実状としては、木材割当証明書の有効期限が経過しても資材調整事務所から輸送証明書の交付を受けた後一年位は資材の発送は可能である。又仮にこれが許されぬとしても、第二次協定以後は、原告が貨車の手配をすることとなつたのであるから、被告が沓掛駅土場に搬出し、原告の検知が済んで引渡をするときに割当証明書を被告に交付すればよいのであり、当時割当証明書は東京においても容易に闇で入手できたから、原告は何時でも直ちにこれを入手することができるが、被告が履行の準備をしないので準備しなかつただけで、原告が割当証明書を被告に提供することが先践義務ではない。

Bの(ロ)に対して、

沓掛駅土場の補修工事があつたことは認めるが、被告が山林現場に素材四百石を集積し、原告に山林現場の点検を請求したこと及び右補修工事終了後被告が約旨に従つた履行の提供をした事実はいずれも否認する。

第六証拠方法<省略>

三、理  由

一、原、被告間に、昭和二十三年二月二十八日松素材千石について、価格の点を除いて、原告主張のような内容の売買契約が成立し、更に同年七月二十七日本契約内容について、価格の点を除いて原告主張のような第二次協定が行われたこと、同年十一月十日までに合計六百二石八斗の松素材が被告から原告に引渡されたこと。原告から被告宛の昭和二十四年六月三日附内容証明郵便が同四日被告に到達した事実及び原告が右内容証明によつて、同書状到達の日から二十日間内に残素材を沓掛駅構内土場で引渡すよう、もしこの引渡をしないときは履行未了の残素材についての売買契約を解除する旨の催告附契約解除の意思表示をした事実は当事者間に争がない。

二、被告は、原告の側に債務不履行、或は受領遅滞の責任があるから、原告は契約を解除することはできないと抗弁するので、この点について判断する。

(一)  先ず、原告が原告会社清水工場を受割当者とする松素材七百石、有効期限昭和二十三年六月三十日という木材販売業者割当証明書を被告に交付した外は、原告は木材割当証明書を被告に交付しなかつたことは当事者間に争ない。

被告は、右の七百石の木材割当証明書は右の有効期限経過により無効となり、当時は割当証明書がなければ木材の売買及び県外輸送は許されないから、買主である原告はこれを被告に提供する先践義務があり、原告がこの義務を履行しない限り、原告に債務不履行の責任があるから、被告は履行遅滞とはならないと主張する。

臨時物資需給調整法に基く指定生産資材割当規則第五条によれば、当時木材割当証明書がなければ木材の譲渡ができなかつたことは明かであるが、証人佐藤、同加藤の各証言及び原告代表者海田の陳述によれば木材割当証明書の有効期限は必ずしも厳格に遵守されておらず、余り長びかない限り期限後も通用していたもので、他県へ輸送する場合は、農林省の受入県への割当証明書を輸出県の森林組合連合会に提出して県外用材割当通知書の交付を受け、その枠内で輸送証明書が発付されるが、輸送証明書の期限が切れた後でも、県の資材調整事務所に申出れば、更に相当期間有効期限を延長することができた事実が認められる。被告から原告に引渡済の素材が昭和二十三年十一月十日現在で計六百二石八斗であつたことは当事者間に争なく、従つて、七百石の輸送の枠があれば、被告はなお九十七石二斗を前述のような期限延期の手続をとつて、適法に原告に引渡すことができた筈である。

なお残三百石について割当証明書は、原告がこれを準備し、被告の素材引渡の時までに被告に交付しなければならないが、必ずしも被告の素材提供前にこれを交付する必要があるものではない。この割当証明書交付義務は、被告の素材引渡義務と対価関係にあるものではないから、被告は同時履行の抗弁権をもつてはいないが、木材売買契約において、目的物引渡行為を有効ならしめる為の要件であるから、被告はその交付がなければ素材の引渡を拒絶することができる。従つて、原告としては、被告からの素材の提供があり、原告がこれを検知の上、引渡が行われるまでに割当証明書を被告に交付すれば足りるのである。しかも、本件においては、被告が割当証明書の交付を原告に請求した事実を証明する証拠は何もないから、被告は原告の割当証明書不交付をもつて、自己の素材不提供の責任を免れる理由として強弁することは許されない。

ことに原告代表者の陳述(第一、二回)及び証人望月の証言(第二回)の一部から考えると、昭和二十三年十一月以降原告から被告に対し何回となく引渡を請求したに拘らず沓掛駅土場に集積した木材は少量である上に約旨に反するものが多く、被告はその頃すでに契約書記載の二十一林班の材木をほとんど他に売却して到底原告に供給すべきものがなく、後記(二)に認定するような、原告側の申出にすら応じなかつたことが認められ、これらの事実からすれば、被告は本件催告の当時その債務を誠実に履行する意思を持たなかつたものと推測されるから、原告が催告の際割当証明書の提供の準備をしていなかつたとしても、本件催告を不適法ならしめるものではない。

(二)  次に、被告は、履行期の昭和二十三年十月十日の前後、九月十日から十月十五日にわたつて、履行場所である沓掛駅土場の補修工事があり、被告の持土場を使用できなかつたので、被告は原告の代理人今見昇に通知して山林現場に協定規格の素材四百石が生産されてあることを点検させて履行の提供をし、沓掛駅土場工事完了後は、同土場に搬出してその引取を原告に請求したがこれを受領しなかつたので、原告に受領遅滞の責任があると主張し、右事実を裏附けるものとしては、証人望月第一、二回証言があるが、証人今見の証言においては同人は望月の要求によつて山林現場で点検した事実を否認しており、又原告代表者海田の第一、二回陳述によれば、昭和二十四年初被告側から土場に搬出したという通知があつたので今見が点検したが規格以下の材が多く、百石にも満たなかつたので受取らなかつた事実はあるが、その他には被告の提供した素材を受取らなかつたことはないこと、又右両名の証言又は陳述によれば、原告としては被告の履行をしつようなまでに催促し、土場に搬出することができなければ他の場所へ、又搬出用車輛がなければこれを原告方で提供する、人夫がなければ立木のままでよいとまで申出ていたこと、等が認められること、又現に履行期後の十一月十日には佐々木工場渡で六十一石二斗一升を原告が受取つている事実は当事者間に争のないこと等を綜合すれば証人望月の証言は信じられず、却つて、成立に争のない甲第二号証の第二次協定書に、最初の売買契約書に記載されてなかつた規格の協定を明記し、且つ、百石まで一時に搬出する旨が特に記載されたのは、原告代表者海田の陳述によれば、被告のそれまでの提供がとかく規格外のものを多く含み、又貨車一台にも満たぬ数量である場合が多かつた為であると認められ、又証人望月の証言によつても明かなように、昭和二十三年七月二十七日の第二次協定の際に、望月が既済の分だけで打切るというのを、続行を希望して第二次協定を結んだ原告としては、前認定の通り素材の提供を熱望しており、被告が本旨に従つた履行の提供をすれば、これを受領しないということは考えられず、むしろ、被告が素材の提供をなさず、又たまたま提供しても契約の本旨に従つた提供でなかつたものと解されるから、原告に受領遅滞があるという被告の抗弁は採用できない。

(三)  原告の昭和二十四年六月三日附の催告附契約解除の意思表示に対する被告の回答書に相当額の前渡金支払の上素材引取方を申送つたにも拘らず原告は前渡金支払をしないと主張するが、成立に争ない乙第六号証の被告の回答書によれば、被告側の計算によつても前渡金残額金十二万五千八百二円七十一銭がなおあることになるから、原告がこの回答書に基いて前渡金の支払をしなくても、これにより被告は不履行の責任を免れることはできない。

以上認定の通り、原告には債務不履行或は受領遅滞の責任なく、催告期間内に、被告が履行の提供をしなかつたことは当事者間に争がないから、右催告期間の経過により、原告の契約解除の意思表示は効力を発生し、本件売買契約の履行未了の部分は解除された。

三、次に昭和二十三年二月二十六日金十万円が、同二十九日金三十万円がいずれも前渡金として原告から被告に授受されたことは争がないが、本件売買契約の松素材の価格について争があるので、この点について判断する。成立に争のない甲第一、二号証、証人加藤、今見の各証言、及び原告代表者海田の陳述によれば、昭和二十三年二月頃、被告が岩村田営林署から払下げた国有林の松素材を公定価格で譲渡するという話が、望月からあり、当時の市価から見て格安であつたので、原告は被告との間に一等材約千石の売買契約を結び、価格の点については、当時の公定価格表の一等材価格とし、公定価格表の改定があつたときは新公定価格表によることとした。(証人望月、本間は此の外に協力費名義で公定価格の四、五割を原告が支払う約束であつたというが、前記各証拠に照し信用しない。)ところが、その後約束の五月末までに全部の履行をしない許りか、(証人望月、本間等は、履行が遅れた理由は、沓掛駅における貨車獲得の困難、原告より別口注文にかかる木材の優先的輸送の申込、駅土場の貨物輻輳等のためであると供述するが、証人加藤、今見の証言、原告代表者の陳述によれば、貨車十輛程度の獲得は当時としても不可能でなく、別口注文は少量で本件の分の履行に大きな支障を来すものではないし、駅土場の混雑も本件の履行にさしたる支障となる程のものではなかつたことが認められる。)被告は貨車積込費、検査費、森林組合費等の経費に充当するため公定価格の四割乃至三割増の口頭の特約があつた旨を主張し、これを否定する原告との間に紛争が起き、被告は既済の分を除き契約の解除を申出るに至つたので、原告は同年七月二十七日改めて被告との間に第二次協定を結ぶに至つた。即ち、原告としては、どこまでも千石の松素材を確保することを望み、被告の公定価格表の一等材価格の四割乃至三割増という主張に対し二割増というところまで譲り、既に引渡済の素材についても右の割合で清算することとなつたことが認められる。七月二十七日の第二次協定までに引渡された四百七十八石九升が売買契約当時の公定価格の二割増に協力費石当り二十円を加算したものによるべきことは被告を代理して終始交渉に当つた証人望月の証言によつても認められ、又成立に争ない乙第六号証の被告からの回答書にもこれを認めていることから明かである。もつとも、第二次協定前の六月二十三日に暫定価格が定められており、この事実を七月二十七日の協定に立会つた望月、及び今見が承知していたことは同人等の証言により明かであり、これを承知していなかつたという証人加藤の証言及び原告代表者海田の陳述は材木業者である原告の職業柄信じられないが、二割増の協定ができるまでの前述認定のような交渉経緯及び証人今見の証言により認められる今見が持参した売買契約当時の公定価格表に従つて話を進めた事実、成立に争ない甲第二号証の第二次協定書の「公定価格」に、七月二十七日前に引渡済のものとその後に引渡すべきものとにつき何の区別も設けてない事実等から見て、暫定価格が制定されてはいたが、売買契約当時の公定価格を基準としたことが認められ、以上の認定に反する証人望月の証言は措信できない。

従つて、六月十四日までに引渡した四百七十八石九升分が金十九万九百八十九円五十三銭(一等材以外のものを含んでいたので、等級別に計算した額)、七月二十八日引渡の六十三石五斗が金二万四千百五十五円四十銭、及び十一月十日引渡の六十一石二斗一升が金二万三千二百八十四円二十八銭となり、被告が原告に引渡した松素材計六百二石八斗の代金は金二十三万八千四百二十九円二十一銭となるから、前渡金四十万円からこれを差引いた金十六万一千五百七十円七十九銭は原告から被告への過払分となる。本件売買契約の未履行分については契約が解除されたから、被告は原告に対し、右過払金と、これに対する最終の受領の日である昭和二十三年二月二十九日以降商法所定の年六分の利率による利息を支払う責任がある。被告は、本件取引は割当公文書なしの取引を目的とする不法な契約であると主張するが、上来説明するところからおのずから明かなように、本件取引は終始統制違反を目的とするものでなく、唯原告において、割当証明書の交付は松素材引渡の際までになされればよいと主張するにすぎないのであるから、被告の右抗弁は採用の限りでない。

四、次に損害金について判断すると、原告は、当時容易に東京の木材割当証明書を闇で手に入れることができたから、本件松素材を東京へ輸送することができたと主張するが、成立に争ない乙第一号証の原告から被告へ交付した七百石の割当証明書は、静岡県清水市の原告会社工場宛であり、第二次協定後被告が協定通り履行したならば、前述認定の通り右割当証明書の有効期限経過後も延期手続をとることにより、七百石までは、清水市へ輸送することができた筈であり、被告もこのことは割当証明書によつて了知していたのであるから、引渡済の六百二石八斗を差引いた九十七石二斗については、清水市へ輸送したものとして、その得べかりし利益に相当する損害の賠償を請求することは認められるが、原告は清水市へ輸送したものとして得られる筈の利益については、何の立証もしない。

又残三百石については、原告は木材割当証明書の準備をした事実は認められず、従つて、これを具体的に何処で処分するかは未定であり、かえつて、七月二十八日、十一月十日の最後の二回に引渡された分は、いずれもその現金化を急いで現地の沓掛で処分している争のない事実から判断すれば、必ずしもこれを県外へ輸出したかどうかも疑わしい。従つて、残三百石の処分により原告がどれだけの利益をあげ得たかを認定する証拠がない。

以上いずれにしても、原告主張の損害賠償請求は認めることができない。

五、従つて、原告請求の中、前渡金過払分及びその利息の請求は妥当と認めるが、損害賠償請求はこれを容れないこととし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条、第九十二条を、仮執行の宣言については同法第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 近藤完爾 和田嘉子 倉田卓次)

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